作品と「対話」してみませんか―大原美術館で知った新しい鑑賞法

皆さんは、彫刻作品を前にしたとき、どのように鑑賞をされていますか。少し答えにくい質問かもしれませんが、今回は私から一つの鑑賞法をご提案します。
それは「対話型鑑賞」という方法です。


■ 大原美術館での衝撃の経験


今から10年以上前のことです。岡山で心理学のセミナーを担当した翌日、倉敷の「大原美術館」を訪れました。入口にあるロダンの彫刻に挨拶をし、館内をひと通り見終えたころ、館内放送で「11時から作品案内を行います」という声が流れました。興味を惹かれ、参加することにしました。


案内を担当する女性が一人、そして参加者は私だけ。「ラッキーだ」と思ったのも束の間、その方は作品についての解説を始めるのではなく、いきなり私に質問を投げかけてきたのです。


「この作品から風を感じますか?」


思いがけない質問に戸惑いながら、「まあ、感じますね」と答えると、続けて「その風はどこから吹いてくるのでしょうか?」と問いが続きます。


私は画面をにらむように見つめながら、「右からでしょうか……」と答えたことをよく覚えています。その後も次々と質問が重なり、私はこれまで経験したことがないほど真剣に一つの作品と向き合いました。


次の作品でも同じように質問が続き、私は徐々に、「鑑賞とは、作品と自分自身に問いかける行為・対話なのだ」と気づかされました。目も頭も全開で、ここまで時間をかけて作品を見たことはありません。


約1時間の鑑賞が終わったとき、私は深い満足感とともに、この方法の凄さを確信しました。正解のない問いのなかで、自由に想像し、自分の感性を働かせる――その経験は、今でも忘れることができません。


この「対話型鑑賞」は、知識中心の鑑賞では見落としてしまう感性・経験・想像力を自然に動かしてくれる方法なのです。


以来、私は彫刻作品を前にしたとき、ときどきこの方法で“対話”をしています。


■ 一人でもできる「セルフ・ファシリテーション」


彫刻作品を前にして、あなた自身が質問を自分に投げかけながら鑑賞してみると、作品との関係が驚くほど変わります。見えないものが見えてくる――そんな感覚が生まれるかもしれません。
そこで、私がよく使う質問リストを以下にまとめました。ぜひ作品の前で、ひとつずつ試してみてください。あなたの作品の見え方が、きっと変わるはずです。


■ 彫刻作品のための「対話型鑑賞」20の質問
1.この彫刻を見たとき、最初にどの角度が目に入りましたか。
2.この作品は、どちら側から見ると最も安定しているように感じますか。
3.身体(もしくは形)は、どちらに重心があるように見えますか。
4.このポーズは、今まさに動き出す前でしょうか。それとも動きを終えた後でしょうか。
5.作品のどの部分に「緊張」を感じ、どの部分に「ゆるみ」を感じますか。
6.素材(石・木・ブロンズなど)は、この作品の印象にどのように影響していると思いますか。
7.触れることができるとしたら、どこに触れたいと感じますか。その理由は何でしょう。
8.この作品は、どの方向から光が当たっているように見えますか。
9.影の落ち方は、作品のどの部分を強調しているように見えますか。
10.彫刻の「空白の部分」——つまり何もない空間——はどのように使われていると思いますか。
11.この人物(または形)は、どんな感情を秘めているように見えますか。
12.もしこの彫刻が音をもつとしたら、どんな音が響いていると思いますか。
13.この作品には、どのような「時間」が流れているように感じますか。
14.彫刻家は、どこに最も心を込めたように感じますか。
15.作品の表面(テクスチャー)は、どのように作品全体の印象に寄与していますか。
16.あなたがこの作品のまわりを一周するとしたら、どの角度で最も「表情の変化」を感じましたか。
17.この姿勢は、実際の人間が取れる動きでしょうか。それとも理想化された姿でしょうか。
18.作品全体として、重さをどのように感じますか(軽い/重い/漂うよう/沈むよう、など)。
19.いま見えている形の背後に、どんな物語が流れているように感じますか。
20.この彫刻から離れたあと、あなたの身体感覚(姿勢・呼吸など)に変化はありましたか。